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■一枚の絵から ■肌色と3つの色 ■秋 ■なごり雪 ■小津映画 ■田中一村 ■水彩画 ■これから ■桜
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■アート ■絵のスタイル ■闇と光 ■生命と表現の原点 ■エネルギー ■現代アート ■個と全体 ■絵との出会い
■緊張感 ■マチエール ■最近のアート ■秋に想うこと


★アトリエからのメッセージ(10)★



06/06/13
[30]最近のアート
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今、アートとイラストレーションが成熟した繁栄期を迎えようとしています。特に3Dの発展は目を見張るものがあります。印象派以前は、人々のアートに関する思考がほとんど同じ方向を向いていましたが、今はアートというガラスの像が崩れ、無数のアートの破片が飛び散り、個々の様々な方向に無差別に向いている状態で、その中で新しい感性が生まれているかんじです。

主観的な絵もピカソ以降、年月をかけて一般的に認められるようになり、誰もが好きなように絵を描くことができる時代になっています。またコンピューターの普及により、アートの写実的な垣根が低くなり、昔はまっすぐな線を引くことや、ムラなく色を塗ることさえ苦労しましたが、そのようなアートにおけるさまざまな技術的な壁はコンピューターによってクリアーされました。

数十年前と比べると、絵を描く人は何倍にも増えています。そしてビジュアル的にもかなりの発展を遂げました。音楽でアマチュアがお金を手に入れるのは、ライブ活動にしてもCDを出すにしても、まだまだ垣根は高いのですが、アートに関してはコンピューターやプリンターの普及などもあり、ポストカードやちょっとした画集などは個人でも簡単に作れます。

またフリーマーケットやアートフェアーが盛んになり、たくさんのセミプロを生み出しましたが、私はこれはいいことだと思います。多くの人が自分の描いた絵によって、少しでもお金を手に入れることができるということは、個人個人の主観的なイラストやアートが認められたことになります。それらは個々が尊重される時代へと繋がるのです。

人類が豊かになるには、アートはなくてはらないものだと思います。しかしアートが増える一方で、アートだけで充分なお金を手に入れることが難しくなってきました。それはしかたのないことです。それを補うには様々な引き出しを持ち、臨機応変に対応していくことでしょう。昔は絵を描いてお金を手に入れることができるのは、ごくわずかの限られた人だけでしたが、今はたくさんの人が自分の描いた絵でお金を得ることができる時代になりました。これがいちばんすばらしいことなのです。






06/05/06
[29]マチエール
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私は画廊などで絵を見る時に、鼻がつきそうなほど顔を近付けて見ます(美術館では怒られますが)。昔は絵を描く人ならば、ほとんどの人がそうしていたような気がします。どういう風に描いたのか、その絵の表面のタッチ(マチエール)を見ているのです。

マチエールにはその絵描きの歴史(ドラマ)が隠されています。長い年月をかけて会得した絵には、それなりのマチエールが見えてくるものです。そしてマチエールを見る目は、絵を描く力と比例します。ですので実際に絵を描くことによって、その中に含まれたマチエールのドラマを見抜く目が養われるのです。絵描きと評論家の意見が食い違うのは、そこからきています。独自のマチエールを作ることがオリジナルの第一歩で、1年かけたら1年なりのもの、10年かけたら10年なりのものができると思います。

音楽に絶対音感というものがありますが、絵にも絶対的な色感というものがあるのかもしれません。色彩感覚はその基礎を理解し、訓練することでかなりのところまで見えてくるものだと思います。

自然の形あるものは、森羅万象のごとくつらなっているものですが、色もその中の一部なのです。すべての色はつながっていて、ハーモニーがあります。自然界のほとんどがグレートーン(3色が無限に混ざりあったもの)でできていますが、そのグレートーンを読みとる力こそ、絵を描く上で大変必要なものです。そしてあらゆるグレーは美しいものであって、世の中にきたない色というものはないということなのです。ではなぜ色がきたないと感じる時があるのか、それをみなさん考えてみてください。





06/01/29
[28]緊張感
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私の絵にはふたつのスタイルがあります。ひとつは緻密な油彩画で、もうひとつはアクリル絵の具の淡彩画です。油彩画の方は3ヶ月ほどかけて描いているので、見るからに細かく、緻密なものです。淡彩画は印象的な色でサラッと描かれています。それらを見る方は緻密な油彩画はさぞかし神経を集中させて描いているのだろうと、そして淡彩画の方はリラックスして描いているのだろうと思うのではないでしょうか。

実はその逆なのです。油彩画は長丁場ですので、リラックスして描いてゆきます。油彩画は極度な緊張感はないのですが、長期間描き続ける精神力が必要です。これは少しずつ訓練してゆくしかありません。私も20年かけて訓練してきました。

技法的には油彩は直しがききます。失敗しても上から塗りつぶせばいいわけです。色をプラスしていく描き方なので、音楽を聴きながら描いていることもよくあります。それとは反対に、淡彩画はイメージを高めるために、描く前に音楽をかける時がありますが、描く時には集中力を高めるため、いっさい何も聴きません。淡彩画は真っ白い紙に筆を入れる瞬間とそれから2〜3分が勝負です。真剣白刃で神経を尖らせて一気に描きます。そして瞬間的に失敗と感じたら素早く水で流してしまい、また初めから描きます。水の流れと色のグラデーションが絵の良し悪しを決めていくので、一瞬一瞬が勝負でふたつと同じものができません。

いい絵ができた時、また同じ絵を描きたいと思って描いた場合は必ずといっていいほど失敗します。それ以上の作品ができないのです。今だから言えるのですが、心の持ち方を変えればよかったのだと思いました。同じように描くと考えるのではなくて、違うものを描くと考えるとそれとはまた違った、描く前には考えてもいなかったような美しさを見せてくれるものができる時があります。

このように淡彩画は、その時その時の気持ちの状態でも絵が変わっていきます。もう100枚近く描きましたが、毎回緊張します。直しのきかない絵を描く時の緊張感というものは大切なことだと思います。描くことになれてしまって、スイスイと何も考えずに描くようになったら、その絵はそこでおしまいです。アーティストは絶えず緊張感のあるもの、うまく描けるかどうかわからない、失敗するかもしれないことに挑戦していくことが大切だと思うのです。何かを表現する者は、絵に限らず歌や演劇、スポーツなども、いつの時も緊張するものと向かい合うこと、言い変えれば表現者は緊張感を求める義務があると思います。それによってでてくるものこそ本物であり、感動するものだと思うのです。





 

玉神輝美のサイン