絵を描く者にとって過去の偉大な画家たちはすべてライバルです。私が絵を描くにあたって初めにぶちあたった壁が父親の存在でした。20歳の頃、まずは父親と同じように人物画を描けるようになったら次の段階に進もうと考え、懸命に人物を描き研究をしていました。しかし何年か経ち、父親と同じように描くことは私もそれに一生費やさなくてはいけないということが解りました。
そしてその人を超えるとか超えないとかいうことが、私には意味のないことだということに気付いたのです。
そうしたら自分は何かと考えた時、私は今の時代に生まれ今の空気を吸っています。そこで生まれてくる自分の感性を出すことが自分にとっていちばん大事なことだということに気付き、その時肩の荷がとれ気持ちが楽になりました。
そこから自分の考えやスタイルができるまで10年近くかかりましたが、この苦しみの数年間を考えると何の苦でもありません。それはさまざまなものを感じ、吸収して思うがままに描いてゆけばいつかは見えてくるものだと解っていたからです。
私はひとつのスタイルに固執することは、ひとつの時代に固執するようで私のスタイルではないと思っています。時はいつも流れるように流れ、その中に自分もいて、その時その時を感じることが大事だと思っているからです。時は流れてゆくごとに私のスタイルも少しずつ変わってゆくと思いますが、いつもその中に変わらないものを求めて描いています。
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